N 156 ページ 赤壁賦の通釈の中のミスプリ。(NHK 漢詩紀行、監修:石川忠久・著者:牧角悦子)

「鬱蒼たる気」の気は「」です。

「赤壁賦」、蘇東坡。     

              この漢詩の読み

壬戌之秋         じんじゅつの秋

七月既望         七月きぼう

蘇子與客泛舟       そし かくと舟をうかべて

遊於赤壁之下       赤壁のもとに遊ぶ

C風徐來         せいふう おもむろに きたりて

水波不興         すいは おこらず

挙酒属客         酒をあげて かくにすすめ

誦明月之詩        めい月の しをしょうし

歌窈窕之章        ようちょうのしょうを歌う

(中略)

客曰、月明星稀      かく いわく 月あきらかに星まれに

烏鵲南飛         うじゃく南に飛ぶとは

此非曹孟コ之詩乎     これ そうもうとくの詩にあらずや

西望夏口         西にかこうを望み

東望武昌         東に武昌を望めば

山川相繆         さんせん あい まとい

鬱乎蒼蒼         うっことして そうそうたり

此非孟コ之困於周郎者乎  これ孟コの しゅうろうに くるしめられし ところにあらずや

方其破荊州        まさに けいしゅうをやぶり

下江陵 順流而東也    こうりょうを下り 流れにしたがいてひがしするなり

舳艫千里 旌旗蔽空    じくろ せんり せいき 空をおおう

釃酒臨江         酒をそそぎて こうに のぞみ

横槊賦詩         ほこを横たえて詩をふす

固一世之雄也       まことに いっせいのゆうなり

而今安在哉        しかるに今いずくにか ありや

 

この漢詩の

壬戌の年(1082年)の秋、七月の十六夜、私は客人と船を浮かべ 赤壁の下に遊んだ。

涼しげな風が おもむろに吹いてきたが、水面の波は湧き上がることもない。

客人に酒を勧めつつ 明月の詩を朗誦し、『詩経』の窈窕の章を詠う。

中略

客人は言う。「『月明らかに星 稀に、烏鵲 南に飛ぶ』とは 曹操(字は孟コ)の詩ではないですか」と。

「西には夏口、東には武昌を望み、山と河とが迫りあい、鬱蒼とした木が生い茂っている。

ここは曹操が周瑜に苦しめられた所ではないですか」と。

まさに、ここ(赤壁)は曹操が荊州を破り、江陵を下り、流れに従って東に向かって来た所。

船首と船尾は千里にも連なり、旗指しは空を覆うほどである。

「(曹操は器に)酒を注いで船中から長江を見下ろし、ほこを横たえて武装したまま詩を詠んだ」と云う。

実に一世の英雄だったのだ。しかし、今、その英雄たちの姿も戦いの名残も、

ここには何も残ってはいない。全ては時の流れと共に消え去ってしまったのだ。
 


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