J 70ページ、帰園田居の7列目(NHK 漢詩紀行、監修:石川忠久・著者:牧角悦子)

開荒南野際の読み下し文の件ですが

「荒を南野の際に開かんと」では 読み下し文の役目をしていません。

意味不明の日本文です。

荒は どこにあるかと言えば 南の方の野のきわに あるわけですから

「荒を開く 南野の際」或いは「南野の際の荒を開かんと」である必要があります。

尚、最初の行の「俗韻」と「丘山」は 対になっているので 俗韻は 熟語として扱うべきです。

俗韻の意味は 「世俗的赴き」である。

又、中ほどの「方宅」に関して 通釈の中に「一丈四方の宅地と十余畝あまりの狭い畑」と印刷されていますが、

一丈四方は 3mですから 宅地がその広さでは 家は建ちません。

「方宅」の解釈が適切でないのです。「方宅」とは 四角い宅地、です。一丈四方と訳すのは間違いです。

尚、十余畝は 約二十アール、約二千平方メートル、即ち、約七百坪あります。

「方宅十余畝」とは 十余畝の四角い 広い宅地です。

鑑賞ガイドの通釈は 間違いです。意味が全くです。

通釈の「宅地と畑」は どこから来る訳なのでしょうか。

『詩經・國風』の魏風に「十畝之間兮,桑者閑閑兮。」とあり、これを訳すと

「十畝の間,桑つむ者は閑閑たり」として広々とした田園風景を云います。

そもそも陶淵明の家は 帰去来などによれば 庭の小道もあり、松などの樹木が覆い茂っているので

一丈四方の家が建っている敷地ではないです。草ぶき屋根で貧しい家かもしれませんが 召使もいますし。

そこの部分の訳は 間違いです。

又、「八九間」とは 部屋が 「8 or 9つ」です、「間」には 部屋、室と言う意味があります。

そもそも「間」を広さに解釈すると「八九間」は 14m〜16mですから

3m四方の宅地に14mの部屋は おかしい、「一丈四方の宅地」と訳すのは 間違いであるし、

「八九間(ケン)の広さ」と訳しているのも間違いである、「間」とは 部屋数の事である。

この本 鑑賞ガイドは ひどすぎますね。

書いた牧角さんは 監修した石川さんに 学生の頃 そのように教わったのでしょうか。

今だから言える 当ページを開設するに至った理由と経緯 

 

 

園田居」、陶淵明

             この漢詩の読み

少無適俗韻       わかきより ぞくいんに かなうことなく
性本愛丘山       せい もと きゅうざんを愛す
誤落塵網中       あやまりて じんもうの うちに 落ち
一去十三年       いっきょ 十三年
羈鳥恋旧林       きちょう きゅうりんを こい
池魚思故淵       ちぎょ こえんを 思う
開荒南野際       こうを 開く なんやの きわ
守拙帰園田       せつを守りて 園田に帰る
方宅十余畝       ほうたく じゅうよほ
草屋八九間       そうおく はち く けん
楡柳蔭後簷       ゆりゅう こうえんを おおい
桃李羅堂前       とうり どうぜんに つらなる
曖曖遠人村       あいあいたり えんじんの村
依依墟里煙       いいたり きょりの けむり
狗吠深巷中       いぬは ほゆ しんこうの うち
鶏鳴桑樹巓       とりは 鳴く そうじゅの いただき
戸庭無塵雜       こてい じんざつ なく
虚室有余閨@      きょしつ よかん あり
久在樊籠裏       久しく はんろうの うちに ありしも
復得返自然       また 自然に かえるを得たり

 

この漢詩の

若い頃から 俗世間に適応するのは 性に合わず

生まれつき 大自然(山々)を愛してやまなかった。

それが何を間違ったか世間という網の中に囚われ

いつのまにか 十三年間にもなってしまった(官吏として過ごしてしまった)。

旅路にある鳥(渡り鳥)は、もと住んでいた林を恋しく思い

池の魚は、もと住んでいた淵を懐かしく思う、ものだ。

南の野の際の荒地を開墾しようと

貧しくても自分の生き方を守り、田畑のある田舎へ帰って来た。

四角い宅地が、約七百坪あり

草葺きの粗末な家だが、八つ、九つの部屋がある。

ニレや柳の枝が家の後ろ側の のきに覆い被さっている

桃と スモモの木が、表座敷の前に 植えられている。

遠くの人の村は、おぼろに霞み

荒れ果てた村里からは、絶え間なく細々とした煙が上がっている。

路地の奥では 犬がほえ

桑の木のてっぺんでは ニワトリが鳴いている。

戸口や庭先には、ごちゃごちゃとしたものは無く

何もなくガランとした部屋には、ゆとりがある。

長い間、鳥籠の中にいたが(陶潛の13年間の官吏生活)

また、再び、本来の自然の生活を手に入れることが出来た。

 


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